砂川昇健の人生論:~上京、失敗、そして孫子の兵法~

~ 第3回:上京、失敗、そして孫子の兵法 ― プロセスがもたらす学び ~

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上京と挑戦

東京の街並みや高層ビルを想起させる写真
若き日の決意と大都会・東京

私は高校を卒業するとともに上京し、働くことにしました。5人兄弟の末っ子だったので、家を守る役割はないと考え、上京して起業する道を選びました。さまざまなアルバイトをして貯金をしましたが、やりたいことが見つからず、結局そのお金を使って専門学校に通うことにしました。在学中も学費のためにアルバイトを続けていましたが、最終的にはアルバイト先だった某食品会社に請負社員として入社することになりました。

仕事内容は、朝3時に起きて食品の積み込みと配送を行うものでした。それだけでなく、発注や商品販促も任され、特売の交渉や価格設定など、すべて自分でこなさなければなりませんでした。商品仕入れ価格、売価設定、粗利の計算など、若い自分にとっては非常に勉強になる仕事でした。

その会社で7年半働き、2300万円ほど貯金することができました。そして、その資金を元手に自分の店を出店しました。しかし、2年ほどで採算が取れなくなり、最終的には店を閉める決断をしました。起業する人の90%近くが数年以内に倒産するという統計がありますが、まさに私もその社会の洗礼を受けた一人だったのです。

少年時代の孫正義氏と藤田田氏の逸話

話は変わりますが、日本マクドナルドの創業者である藤田田(ふじたでん)氏のもとに、何度も手紙を送り付けた少年がいたそうです。その内容は「どうすれば起業して成功できるのか」というものでした。最初は相手にされなかったようですが、少年は藤田氏のもとに直接押しかけてきたそうです。

その少年は、渡米する直前に藤田氏に面会を求めました。仕方なく藤田氏はその少年と会い、「これからはコンピュータの時代だから、そんな職業を目指したらいいのではないか」とアドバイスをしたそうです。数年後、少年は「流暢」という翻訳システムを開発し、それを1億円で販売。その資金を元手に起業し、大成功を収めました。その少年こそが、ソフトバンクの創業者・孫正義氏です。

東京を歩く少年の写真
少年の名は

成功と失敗を超える仏教的視点

私は若気の至りで、7年半の時間を無駄にするとともに「2300万円」もの損失を出してしまいました。一方で、孫正義氏のように大きな成功を収めた経営者も、実際には多くの失敗を経験しているのではないかと思います。彼の規模では、何百億、何千億と儲け損なうことも少なくないでしょう。それでも、彼が私の何百倍、何千倍も不幸であるとは思いませんし、逆に何百倍、何千倍も幸せだとも感じません。

振り返ってみると、冬の寒い早朝、かじかんだ手で荷物を積み込み、配送業務に励んだ日々が今でも鮮明に思い出されます。また、最低のコース(売上が低迷していたエリアや店舗)が割り当てられた時、そのコースを売上トップにまで育て上げた達成感は、私にとってかけがえのない経験です。それらの苦労や喜びは、一瞬一瞬の出来事でありながら、私の心に深く刻まれています。

仏教的な視点から見ると、成功も失敗も普遍的なものではなく、すべてが「無常」、すなわち変化し続けるものです。成功は一時の結果であり、永遠ではありません。同様に、失敗もまた一時的なもので、それが人生全体を決定づけるわけではありません。大切なのは、それらの結果に囚われることなく、その背後にある「プロセス」に目を向けることです。

私が得た学びや喜びは、目に見えないものとして今でも私の中に残っています。結果だけに目を向けるのではなく、その過程を通して得られた経験や成長こそが、私の人生を豊かにしているのだと感じます。仏教が説く「因縁果の法則」に倣えば、成功も失敗も、その時々の因(原因)と縁(条件)によって現れる「果(結果)」にすぎません。それらを超えて、私たちはプロセスを通じて成長し、次の一歩を踏み出すことができるのです。

成功や失敗に一喜一憂せず、そのプロセスを大切にしながら進んでいくこと。それこそが、私にとって本当の「財産」なのだと思います。

配送業務の写真
配送業務に励んだ日々

孫子の兵法と「背水の陣」

階段を上る男性の写真
背水の陣で挑み続ける姿勢

私の失敗を「孫子の兵法」と言う視点からも評価してみたいと思います。

孫子の兵法では、戦いにおける失敗や困難を無駄にせず、それを糧に次の勝利を導くための戦略が強調されています。この文章で描かれている「失敗からの学び」と「達成感」は、以下の孫子の教えと響き合います。

知己知彼(己を知り、敵を知る)
「7年半の時間と2300万円の損失」という経験は、自己を深く知る機会になったと考えられます。また、最低のコースを売上トップに育て上げた経験は、環境(市場や顧客)を理解し、適切な戦略を取る能力を養う機会となりました。孫子は「己を知り、敵を知れば百戦して殆うからず」と説いています。失敗を通じて自己の限界や市場の特性を学ぶことで、次の成功への道が開かれます。

売上が低迷していたエリアや店舗をトップに押し上げた経験は、困難な状況の中に可能性を見出し、それを成功へと転換する能力を示しています。孫子は「危機の中にこそ機会がある」と述べています。苦境を逆転のチャンスと捉え、状況に適応して戦略を立てる姿勢がここに反映されています。孫子は、戦いにおける精神力や粘り強さを暗に強調しており、成功を収めるには持続的な努力と精神的な強さが不可欠であると示唆しています。「かじかんだ手での配送業務」や「絶えず努力を続ける姿勢」は、この教えに通じるものがあります。

孫正義氏の規模と比べても、自分の幸せがそれに比例しないと認識する姿勢は、「外的な成功」に振り回されず、内面的な満足や達成感を大切にする生き方を示しています。孫子は「上策は戦わずして勝つこと」と説きます。自分の価値を外部に求めず、内なる満足を得ることは、戦わずして勝つ精神的勝利の形とも言えます。

又、「背水の陣」と言う教えとも響き合います。
「死地に陥れて然る後に生を得、絶境に置いて然る後に存す。」
(死地に追い込むことで、はじめて生き延びる術を得られる。絶境に置くことで、はじめて勝利が可能になる。)

これは、退路を断つことで兵士たちが後に引けなくなり、持てる力を最大限に発揮する状況を作り出すことの重要性を示しています。私には、何も失う物がなく、ただひたすら奮闘するしかありません。精神的にも肉体的にも限界に挑戦し続けるしか生きるすべがなかったのです。

しかし、これらの経験は私の半生の序曲に過ぎなかったのです。(続く)

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著者プロフィール
砂川 昇健(すなかわ しょうけん)
沖縄県石垣市出身。高校を卒業してすぐに上京し、「一旗揚げるまでは帰らないぞ」と誓い、様々な職を経験した後、1998年7月24日に株式会社システムアートを設立。以降、現在まで代表を務める。
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